冬のアコギ、割れる前に知っておく湿度の目安
今年は11月7日が立冬です。暦の上では冬の入口に立つこの時期、奈良盆地では朝晩の冷え込みが強まり、暖房を使う日が増えていきます。木でできたアコースティックギターにとっては、気づかないうちに負担が積み重なる季節のはじまりです。
この記事では、冬のギターについて多くの方が気になる疑問を、順番にお答えしていきます。なぜ冬に割れやすいのか、湿度はどのくらいを目指すのか、部屋の加湿や暖房との付き合い方、弾き終わりにすること、おかしいなと思ったときの動き方、そして自分でやってよいことと店に任せたほうがよいことの線引きです。楽器のお手入れに詳しくない方でも、今日から試せる内容に絞っています。
冬のアコースティックギターは、なぜ割れやすいの?
割れが起きやすいのは、空気が乾燥するときです。特に秋から冬にかけて、乾燥した空気が続く時期に目立ちます。
冬は空気そのものが乾いているうえに、暖房の風が加わります。ボディの木がじわじわ縮み、縮みに耐えきれなくなった部分から割れやすくなる、という流れです。特に、表板などに一枚板(単板)を使ったギターは、湿度の変化に敏感だとされています。
ここで大切なのは、「湿気が多いこと」そのものより、「湿ったあとに急に乾くこと」のほうが危ないという点です。梅雨から夏にたっぷり湿気を吸った木が、秋から冬にかけて急に乾いていくと、縮む量が大きくなります。差が大きいほど、木にかかる負担も大きくなります。
- 夏の湿気で、木がふくらむ
- 秋から冬に空気が乾いて、木が縮む
- 暖房や直射日光で、さらに急に乾く
- 縮みに耐えきれなくなった部分から、割れやすくなる
たとえば、夏のあいだ湿気の多い部屋に置いていたギターを、冬になって暖房の効いた部屋の風が当たる場所に移した、という場面を思い浮かべてみてください。木にとっては、短い間に環境ががらりと変わったことになります。人間でいえば、蒸し暑い日から急に乾いた寒い日へ、着替えもなしに放り出されるようなものです。ギターの「割れ」は、突然の事故のように見えても、季節をまたいだ変化が積み重なった結果かもしれません。
つまり、冬のお手入れの目的は「乾燥させないこと」というより、「木に急な変化を与えないこと」です。この考え方を頭に置いておくと、このあとのお話がすっと入ってきます。
冬の湿度は、何%を目指せばいい?
目標は、「50%を中心に、プラスマイナス5%」の範囲を一定に保つことです。目安として挙げられている数字のひとつです。
| 見るポイント | 目安 |
|---|---|
| 湿度 | 50%前後(プラスマイナス5%の範囲) |
| 大事なこと | 数字を一定に保ち、急に変えないこと |
| 気温 | 15〜22度が目安。ただし温度そのものより、急な変化を避ける |
| 体感の目安 | 人が快適に過ごせる環境なら、ギターも快適 |
「人が快適に過ごせる部屋なら、ギターも快適」というのは、覚えやすい考え方です。ギターのために特別な環境を作るというより、人が過ごしやすい部屋を、急に変えずに保つということです。湿度の差が大きいほど、木から水分が抜ける「排湿」が起こって割れやすくなる、と考えられています。
なお、冬の湿度が実際に何%になるかは、お住まいの建物や暖房の種類で大きく変わります。まずは数字を測るところから始めましょう。
湿度計は、どこに置けばいい?
まず湿度計を置いて、いまの数字を知るところから始めるのが近道です。「乾いているかな?」と感覚で判断するより、数字で見たほうが、状態を落ち着いて判断できます。
- 部屋に置く小型の湿度計:部屋の湿度を見るためのもの
- サウンドホール(ボディの丸い穴)に入れるタイプの湿度計:ギターの内部の湿度を見るためのもの
ボディの内側の湿度が高いときは、乾燥剤を使い、50%付近まで下がったら取り出す、という手順があります。乾燥剤を入れっぱなしにはしないことが大切です。
冬に部屋を加湿するには、どうすればいい?
加湿器を使うか、水を入れた小皿や濡れタオルで部屋の湿度を補うのが基本です。乾燥する季節に使われている方法です。
| 方法 | ポイント |
|---|---|
| 加湿器 | 部屋全体の湿度を保ちやすい。湿度計の数字を見ながら調整する |
| 小皿に水 | 部屋の湿度を補う方法のひとつ。湿度計の数字で確認する |
| 濡れタオル | 部屋に干しておく。手軽だが、数字で確認する |
もうひとつ気をつけたいのが「急な変化」です。料理や入浴で一気に湿度が上がる場面では、ギターをいったんケースに避難させておくと、湿度の急な変化から守れます。
反対に、加湿しすぎて結露させてしまうのも避けたいところです。加湿は、湿度計の数字を見ながら少しずつ行いましょう。「乾燥が心配だから、とにかくたくさん」ではなく、「目標の範囲に収まっているか」を見るのがコツです。
暖房や直射日光の近くに置いてもいい?
温風が直接当たる場所と、直射日光が当たる場所は避けてください。悪いのはエアコンの温風が直撃することで、「寒い部屋のほうが安心」というわけではありません。ギターにとってよくないのは、温風による急な乾燥と、急な温度変化です。
- エアコンの温風が当たる位置は避ける
- 電気ヒーターなど電気暖房を使うときは、加湿器を併用する
- 窓際の日だまりは、冬でも直射日光と同じと考えて避ける
- 直射日光は、ケースに入れていても避ける
寒い日にギターを持ち運ぶとき、気をつけることは?
屋外から暖かい室内に入ったら、すぐにケースを開けず、温度をなじませてから出すのがポイントです。冷えきったケースを暖かい部屋でいきなり開けると、ギターの表面に水滴がつく(結露する)ことがあるからです。しばらくケースのまま置いて、ゆっくり室温に慣らしましょう。
| 場面 | 気をつけること |
|---|---|
| 屋外から室内へ | ケースのまま、しばらく置いて温度をなじませる |
| 車での移動 | 夏冬ともトランクではなく、車の室内に置く。夏の車内は70度近くになるので、放置しない |
| ケースの選び方 | ソフトケースを過信しない。ハードケースのほうが安心 |
| 宅配で送る場合 | 弦を緩め、ハードケースを使い、ヘッド(先端)を浮かせる |
車の中は、夏には70度近くまで上がるとされています。冬の話から少し離れますが、一年を通して「車に置きっぱなしにしない」と覚えておくと安心です。
弾き終わったあとは、何をすればいい?
弾き終わりは、「弦を緩める、拭く、しまう」の流れを決めておくと続けやすくなります。具体的には、次の順番です。
- 弦を緩める(ボディの変形を防ぐため)
- 弦の裏側を拭く(指板を守るため)
- フレットのきわの指板を拭く
- ネックの裏側を拭く
- 最終的に、弦を「1音下げ」程度まで戻す
- 弦と指板の間に乾いたクロスをはさんで、ケースへ
毎日弾く方が短い間しまっておくだけなら、特別なケアは必要ありません。長く弾かない日が続くときや、冬の乾燥が気になる時期に、この流れを思い出してください。
もうひとつ、ギターの内部のホコリは湿気を吸いやすいため、サウンドホールから静かに取り除くとよいとされています。このとき、内部の補強材(ブレイシング)にぶつけないよう、そっと行うのがポイントです。自信がなければ、お店にお持ちください。
ひび・浮き・割れかも?と思ったら、どうする?
まず弦を緩めて、お店に相談してください。見つけたときに、自己流で接着剤を流し込むのは禁物です。
気づくきっかけは、「見た目」「触った感じ」「音」の3つです。
| 気づくきっかけ | 疑うこと |
|---|---|
| すき間に紙が入る | 割れ始めの可能性 |
| 押すとペコペコする | 接着がはがれている可能性 |
| 急に音が変わった・ビビる・すぐ音程が狂う | どこかに不具合があるサイン |
次のような症状は、弦の張力で悪化していくため、早めに直したほうがよいものです。
- 生木(塗装の下の木)が見えている
- 内部の補強材(ブレイシング)が剥がれている
- ブリッジ(弦を支える部品)が剥がれている
- ネックの付け根(ジョイント)にすき間がある
- ヘッドが割れている、表板が割れている、ネックにヒビがある
一方、塗装の表面だけの傷や、塗膜が生きている打痕は、様子を見てよいものです。ただし、見た目だけでは判断しにくいことも多いので、迷ったら写真を撮ってお店に見せてください。「ビビる」「音がボソボソする」と症状を伝えるだけで十分で、原因を自分で断定する必要はありません。
ブリッジのすき間や、サドルのカタカタが気になったら?
弦を張ったまま放置せず、まず弦を緩めてお店に見せてください。ブリッジ(弦を留める台)の浮きは、ボディの端側(後ろ側)のすき間から始まることが多いとされています。すき間が前や横にまで広がっているときは、浮きが進んでいる状態です。
- ブリッジの後ろ側に、すき間がないか見る
- すき間があれば、弦を緩める
- お店に症状を伝える(「ここにすき間がある」で十分)
また、弦を支えているサドルという部品が、溝の中でカタカタ動く、弾くたびに音程がずれる、という症状が出ることもあります。サドルと溝の前後にすき間があると、音程のずれにつながります。紙を挟むのは応急処置にとどまり、溝を削る、サドルを作り直すといった作業は、お店で行う内容です。
症状のある場所の写真を撮っておくと、お店に伝えるときに役立ちます。
エレキギターは、冬にフレットの端が指に当たることがある?
空気が乾いて、指板(指で押さえる板)が幅方向に縮むことが、原因のひとつです。エレキギターの話ですが、冬の乾燥で指板が縮んでも、金属のフレットは縮まないため、フレットの両端が横に出てくることがあります。ポジションを移動するときに、左手がチクチクする、というのが気づくきっかけです。
この現象は、楽器が不良品というより、保管環境の問題だと考えられています。湿度が戻ると、はみ出しが引っ込むこともあります。目で見るより、指でなぞって確かめるほうが分かりやすいものです。
- ネックの横を、指の腹でそっとなぞってみる
- 引っかかりがあれば、まず部屋の湿度を確認する
- 温風が直接当たる置き場所を変える
- はみ出しを削る作業は、指板や塗装を削ってしまう恐れがあるので、お店に任せる
これはエレキギターで知られている現象です。アコースティックギターで気になる症状があるときは、症状をそのままお店に見せてください。
しばらく弾かない予定があるときは、どう保管すればいい?
長く弾かないときは、ハードケースに入れて、置き場所と湿度を決めてしまうのが安心です。長期保管の考え方は、次のとおりです。
- ハードケースに入れ、事前に掃除をしておく
- 弦は緩める(年単位の長期なら外す、という考え方もある)
- ケースは湿気を飛ばしてから、湿度調整剤を入れる
- 押し入れに置くなら、上段やすのこの上を選ぶ
- 半年に一度は、ケースを開けて状態を見る
アコースティックギターは、湿度がとても大切な楽器です。年末年始のお出かけや、数週間まったく弾けない時期が見えているなら、その前に一度、湿度計の数字を確かめてから片づけましょう。帰ってきて久しぶりにケースを開けたときも、割れやすい時期に急な変化を与えないことが大切です。
湿度計がなくても、乾燥に気づく方法はある?
目安になる合図はありますが、乾燥が原因かどうかは見た目だけでは分かりません。ブリッジの後ろにすき間ができる、急にビビるようになる、音が急に変わる、といった変化は、どこかに不具合があるときの合図です。ただ、これらが乾燥のせいなのか、別の原因なのかは、持ち主の方が見分ける必要はありません。
症状が出てしまってから慌てるより、前もって数字で見られるようにしておくほうが、ずっと気が楽です。湿度計は、そのための小さな見張り番だと考えてください。もし変化に気づいたら、弦を緩めて、お店にご相談ください。
冬のあいだ、どこを見ればいい?
難しい点検は不要です。冬のあいだは、次の4つを見る習慣をつけると安心です。数字は湿度計、あとは目と指と耳で確かめます。
- 湿度計の数字:50%前後から、大きく外れていないか
- ブリッジの後ろ:すき間ができていないか
- ネックの付け根(ジョイント):すき間がないか
- 音:ビビる、音が変わった、すぐ音程が狂う、といった変化がないか
変化をメモしておくと、お店に相談するときに役立ちます。「いつから」「どこが」「どんな音で」を伝えれば、状態を確かめやすくなります。
自分でやってよいことと、お店に相談することの線引きは?
元に戻せる作業は自分で、元に戻せない作業や悪化しうる作業はお店で、が基本です。やり直しがきく作業なら、失敗しても取り返せます。やり直しがきかない作業は、一度の失敗が大きな修理につながります。
| 自分でやってよいこと | お店に相談したいこと |
|---|---|
| 湿度計の設置、加湿・除湿の管理 | 表板やヘッドの割れ、ひび |
| 弾き終わりの拭き掃除、弦を緩める | ブリッジやブレイシングの剥がれ |
| ケースの置き場所の見直し | ネックジョイントのすき間 |
| サウンドホール内のホコリを静かに取る | 接着や補修(自己流の接着剤は禁物) |
天理楽器では、修理・調整は店舗への持ち込みでご相談いただけます。郵送での相談も可能です。冬の入口のこの時期に一度、いまの状態を見せていただくことで、乾燥しきる前に気づけることもあります。
冬の入口に、いまから始められることは?
今日できるのは、湿度計を用意することと、置き場所を見直すことの2つです。天理楽器では、奈良の気候を踏まえて、夏前の5〜6月と冬前の10〜11月が、木製楽器のメンテナンスに特に大切な時期だと考えています。奈良盆地は冬の乾燥が厳しく、昼夜の気温差も大きいためです。
- 湿度計を置いて、いまの数字を知る
- ギターの置き場所を、エアコンの風や日だまりから離す
- 弾き終わりの流れ(緩める、拭く、しまう)を決める
- 気になる症状があれば、弦を緩めて写真を撮り、お店に相談する
新しい楽器を迎えたばかりの方も、長く愛用している方も、基本は同じです。ギターは「急な変化」が苦手な楽器です。変化をゆるやかにしてあげることが、お手入れの土台です。
よくある質問
- 冬のアコースティックギターの湿度は何%がいいですか?
- 湿度は50%を中心に、プラスマイナス5%の範囲で一定に保つのが目安です。大切なのは数字の高さより、急に変えないことです。まず湿度計を置いて、いまの部屋の数字を確かめましょう。天理楽器でもご相談いただけます。
- アコギが冬に割れやすいのはなぜですか?
- 空気が乾燥する秋から冬は、木が縮んで負担がかかるためです。木は湿気を吸うとふくらみ、乾くと縮みます。夏に湿気を吸った木が冬に急に乾くと、縮む量が大きくなります。湿ったあとに急に乾く変化が特に危ないので、冬の入口から湿度を一定に保つことをおすすめします。
- 冬は加湿器とエアコン、どちらを使えばいいですか?
- どちらも使えますが、エアコンの温風がギターに直接当たる位置は避けてください。悪いのは温風の直撃であって、寒い部屋にしておけばよいわけではないからです。加湿器を併用して、湿度計の数字を見ながら調整するのが基本です。電気暖房を使う場合も、加湿器を一緒に使うと安心です。
- ギターは弾き終わったら、弦を緩めたほうがいいですか?
- アコースティックギターは、弾き終わりに弦を緩め、最終的に1音下げ程度まで戻す方法があります。ボディの変形を防ぐためです。毎日弾く方の短期間の保管なら、特別なケアは必要ありません。長く弾かない日が続くときに、この流れを思い出してください。
- ギターにひびのようなものを見つけたら、どうすればいいですか?
- まず弦を緩めて、お店に相談してください。放置すると、弦の張力で悪化することがあります。自己流で接着剤を流し込むのは避けましょう。すき間に紙が入る、押すとペコペコする、急にビビるといった症状も、お店に伝えると状態を確かめやすくなります。天理楽器では、店舗への持ち込みのほか、郵送での相談も可能です。
- 自分でやってよいお手入れと、お店に任せるお手入れの違いは?
- 元に戻せる作業は自分で、元に戻せない作業や悪化しうる作業はお店に、が基本です。湿度管理、拭き掃除、置き場所の見直しはご自身で。割れ、剥がれ、ネックの付け根のすき間、接着や補修はお店へ。迷ったときは、症状を伝えるだけで構いませんので、お気軽にご相談ください。
- 冬にギターを持ち運ぶとき、何に気をつければいいですか?
- 屋外から暖かい室内に入ったら、ケースをすぐ開けず、温度をなじませてから取り出してください。結露を防ぐためです。車で運ぶときは、夏冬ともトランクではなく車の室内に置きます。夏の車内は70度近くになるので、放置しないでください。宅配で送るときは、弦を緩めてハードケースを使いましょう。
制作:天理楽器


