弓を張ったまましまうと危ない?冬の弦楽器ケア
11月7日は立冬です。朝晩が冷え込み、暖房を入れる日が増えるこの時期は、バイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスといった弦楽器にとって、湿度の変化が気になりはじめる季節です。
この記事では、弦楽器の手入れでよく出てくる疑問を、「弓を張ったまましまうとどうなるのか」「弾き終わったら何を拭くのか」「冬の湿度はどのくらいを目安にするのか」「弦は緩めたほうがいいのか」「駒が動いたようなときはどうするのか」の順に、ひとつずつお話しします。ご自分でやってよい範囲と、お店や工房に任せたい範囲も、はっきり分けてご紹介します。
なお、楽器のサイズや年代、傷み具合によって、ふさわしい対応は少しずつ変わります。迷ったときは、無理に触らず、写真や症状のメモを添えてお店に相談していただくのが安心です。
弓を張ったまましまうと、どうなるの?
弓の毛は、毎回緩めてからしまうのが基本です。毛を張ったままにしておくと、弓の反りが戻ってしまいます。
さらに、冬ならではの心配もあります。湿った場所で毛を張ったまま、乾燥した場所へ持ち込むと、毛が縮んで弓の先端(ヘッド)が割れてしまうことがあります。たとえば、湿気のこもる場所から暖房の効いた乾いた部屋へ楽器を移すような場面で起こりうる話です。
| しまい方 | 弓に起こりうること |
|---|---|
| 毛を張ったまま保管 | 反りが戻ってしまう |
| 湿った場所で張ったまま、乾燥した場所へ移す | 毛が縮み、ヘッドが割れることもある |
| 毛を緩めて保管 | 反りが戻るのを防げる |
しまう前には、毛を緩めるだけでなく、スティック(弓の棒の部分)、フロッグ(手で持つ根元の部品)、グリップについた汗も拭いておきましょう。
弾いているとき、弓の毛はどのくらい張ればいい?
目安は、スティックと毛のあいだに「スティック1本分のすき間」ができるくらいです。張りすぎると弓が暴れやすくなりますし、パンパンに張るのは弓のためにもよくありません。
張り具合は、慣れるまで感覚がつかみにくいものです。迷うときは、レッスンの講師や店頭のスタッフに、いまの張りを見てもらいましょう。
弾き終わったら、毎回何を拭けばいい?
松脂(まつやに)の粉と汗を、毎回、柔らかいクロスで拭き取ります。松脂とは、弓の毛に塗って弦をこすりやすくする樹脂のことです。弾くと、その粉が弦や楽器の表面に残ります。放っておくと固まって、あとから取れなくなってしまいます。コントラバスの松脂は、とくに粘りが強いそうです。
| 拭くもの | 拭く場所 |
|---|---|
| 松脂の粉 | 弦、表板、指板、駒のまわり |
| 汗 | あご当てのまわり、ボディの右上、ネックと指板 |
弦は、拭いたときに「キュッ」と音がするくらいまで、丁寧に拭き取ります。弦の巻線(金属が巻き付けてある部分)は汗で傷みやすいので、とくに気をつけてあげてください。使うのは、柔らかいクロスです。
月に1回ほどは、市販のポリッシュ(楽器用の磨き剤)で磨く方法もあります。こびりついた汚れを爪で引っかくのは避けましょう。ポリッシュで落ちないときは、工房に相談してください。また、水はニスを溶かすことがあるので、水拭きは基本的に避けたほうが安心です。
松脂は、どのくらいの量を塗ればいい?
塗りすぎないことが大切です。2時間ほど練習する場合で、2〜3回に1度ほどが目安です。毛の根元(弓元)から先へ向かって、4〜5往復ほど塗ります。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 塗る頻度 | 2時間ほど練習する場合で、2〜3回に1度 |
| 塗り方 | 弓元から先へ、4〜5往復 |
| 塗りすぎると | 雑音が出たり、楽器が汚れたりする |
多く塗ったほうが音が出る、というわけではありません。雑音や汚れの原因になるうえ、拭き取る手間も増えます。演奏後の拭き取りも、あわせて忘れないようにしましょう。
冬の湿度は、どのくらいを目安にすればいい?
湿度は50%前後が目安で、40〜60%の範囲を超えないようにします。あわせて、直射日光の当たる場所、ストーブの近く、エアコンの風が直接当たる場所は避けてください。
| 項目 | 目安・注意 |
|---|---|
| 湿度 | 50%前後(40〜60%を超えない) |
| 避けたい場所 | 直射日光、ストーブの近く、エアコンの風が直接当たる場所 |
冬に気をつけたいのは、暖房をつけた部屋で湿度が一気に下がる場面です。木でできた弦楽器は、乾燥しすぎると傷みやすくなります。とくに奈良盆地は冬の乾燥が厳しい地域ですので、部屋に湿度計を置いて、数字を見る習慣をつけると安心です。40%を下回りそうなら、加湿器などで調整しましょう。逆に、加湿しすぎて60%を超えるのも避けたいところです。
湿度は、お住まいの建物や暖房の種類によって変わります。「うちの楽器部屋は何%か」を一度測っておくと、冬のあいだの管理がぐっと楽になります。
弦は、弾かないときは緩めたほうがいい?
日常的には、弦を緩めません。ギターなどの保管では「弦を緩める」と言われることがありますが、バイオリンの仲間はその逆です。弦を緩めると、駒や魂柱(こんちゅう、ボディの中の小さな棒)が倒れやすくなってしまうからです。
| 状況 | 弦の扱い |
|---|---|
| 毎日、あるいは普通に弾いている間 | そのまま張っておく |
| 1か月以上弾かないとき | 4〜5度ほど音を下げる |
この「4〜5度下げる」という目安は、長く弾かないときだけの対応です。完全に緩めきるのではなく、少し下げる、という点を覚えておいてください。ギターをお持ちの方は、考え方が反対になるので、混同しないようにしましょう。
弦を張り替えたら、ペグはどう巻けばいい?
弦はペグの糸穴から約1cm出して、整然と巻きます。張り替えたばかりの弦は、ペグが戻って音が下がることがあります。巻き方を整えると、これを防ぎやすくなります。
- ペグの糸穴から、弦を約1cm出す
- 1周目は、突き出した弦の外側に巻く
- その後は、ペグボックスの内側の壁にそって、整然と巻いていく
- 巻き終わりが、ナット(弦の溝がある部品)の溝に向かうようにする
巻き終わりがナットより外側にあると、弦がまっすぐになろうとする力でペグが緩んでしまいます。乱雑な巻き方は避けましょう。細いE線の仕上げの調弦には、アジャスターを使います。弦の交換が不安な方は、お店に相談してください。
駒(こま)が動いたかも、と気づいたら?
不安なときは、自分では触らず、お店に持ち込んでください。駒は接着されておらず、弦の力で乗っているだけの部品です。そのため、横から力が加わったり、弦を交換するときの巻き取りで動いたりすることがあります。駒に触ることが、魂柱を倒してしまう原因になることもあります。
状態を見るときのポイントは、次の2つです。
- 左右のずれ:スクロール(渦巻き)側から見て、指板の下側のアーチが、駒の中央に来ているか
- 前後の傾き:テールピース側の面が、表板の縁に対して90度になっているか
座って両ももでボディをはさみ、両手で左右から少しずつ動かす直し方も知られています。ただし、弦を切ってしまう、魂柱を倒してしまうなどの不安があるときは、お店に任せましょう。はじめての方は、自己流で触らないのが安心です。
魂柱(こんちゅう)ってなに? 自分で触っていい?
魂柱は、ボディの中に入っている小さな棒で、ご自分では触らない部品です。駒の高音側の足の少し後ろに、軽い圧力で立っています。接着はされておらず、弦を緩めると倒れやすい部品でもあります。
調整には特殊な工具が必要です。ずれているかどうかも、立てた本人にしか分からないことが多く、外から分かるのは「傾き」くらいです。「音がスカスカになった」「弦を緩めたら音が変わった」と感じたら、魂柱が倒れているかもしれません。のぞき込んで直そうとせず、お店に持ち込んでください。
ひび・はがれを見つけたら、どうすればいい?
ひび・欠け・はがれは、ご自分で接着せず、工房に見せてください。接着剤を使った自己流の修理は、避けてください。
| 見つけたもの | どうするか |
|---|---|
| 本体の欠け・ひび・割れ・はがれ | 工房へ |
| ニスのはがれ、ベタつき | 工房へ |
| ペグボックスのひび、ペグ穴の広がり | 工房へ |
| 弓のスティックのゆがみ、フロッグのガタ、チップ(先端)の割れ | 工房へ |
冬は、乾燥で木が縮み、ひびにつながることもある時期です。見つけたら、まず湿度を確認し、ご自分では触らず、写真を撮ってお店で相談しましょう。「いつから」「どこが」を伝えるだけでも、状態を確かめやすくなります。
弓の毛替えは、いつ頃が目安?
松脂の乗りが悪い、引っかかりを感じないときが、毛替えのサインです。ほかにも、片側だけが伸びてエッジが効かなくなる、といった症状があります。
頻度の目安は、工房によって考え方が異なります。ある工房では、半年に1回ほどが目安です。職業として演奏する方は、月に1回のこともあります。発表会などの本番があるなら、1週間前までに済ませておくと安心です。
弓の毛が切れたときは、切れた毛を早めに取り除いておきましょう。中途半端に切ると、結び目から抜けて、次々に切れてしまうためです。毛替えの作業そのものは、弓を分解する工程があるので、工房にお願いします。
発表会や本番の前に、どこを見ておけばいい?
毛替えは本番の1週間前までに済ませ、ほかの点検も早めに行うと安心です。確認したいポイントを並べます。
- 弓:毛替えが必要かどうか(本番の1週間前までに)
- 弓:スティックのゆがみ、フロッグのガタ、チップの割れがないか
- 駒:左右の中央に来ているか、テールピース側の面が表板の縁に対して90度か
- 弦:ペグが戻らないか、音がすぐ下がらないか
- 本体:ひび・欠け・はがれ、ニスのベタつきがないか
気になるところがあれば、本番の直前に慌てず、早めにお店へ。年末の発表会やコンサートの予定がある方は、11月のうちに見ておくと余裕があります。
年末年始など、しばらく弾かないときはどうしまう?
弓の毛を緩め、湿度と置き場所を整えて、ケースにしまいます。弾かない期間が長くなりそうなら、次の順番で片づけましょう。
- 松脂の粉と汗を、柔らかいクロスで拭き取る
- 弓の毛を緩める(スティックやグリップの汗も拭く)
- 1か月以上弾かない見込みなら、弦を4〜5度ほど下げる
- 直射日光、ストーブ、エアコンの風が当たらない場所に置く
- 湿度計で、40〜60%を超えていないか確かめる
久しぶりに弾く前には、弓の毛が切れていないか、本体にひびやはがれがないか、駒が傾いていないかを一通り見ておきましょう。気になる点があれば、弾く前にお店に相談してください。
バイオリンのニスや指板は、どう扱えばいい?
ニスは水に弱いことがあるため、柔らかいクロスでやさしく扱います。バイオリンのニスには、オイルニスやスピリットニスなどがあり、種類や塗りの厚みで、響きや色つやが変わるとされています。水がニスを溶かすことがあるので、水拭きは基本的に避けます。
- ニスの汚れ:柔らかいクロスで拭く。落ちないときは市販のポリッシュ、それでも落ちなければ工房へ
- 爪やかたいものでこすらない
- 指板:バイオリンの指板にはフレットがなく、幅方向にゆるく湾曲しています
- 肩当てを使う場合:調整するのは角度ではなく、位置と、あごの当て方
お子さまが使う楽器は、小さなサイズ(分数サイズ)が成長に合わせて変わっていきます。お手入れのときに、いまのサイズが合っているかも、講師や店頭で確かめてみてください。
お手入れの疑問は、レッスンの帰りや店頭で、気軽に聞いてみてください。普段の使い方を知っている人に相談できると、「これはご自分で見てよいこと」「これはお店に預けること」の線引きもつかみやすくなります。しまい方や拭き方の小さな疑問を、その場で解いておく。それだけでも、冬のあいだの不安はずいぶん減ります。
冬のあいだ、どこを見ればいい?
冬のあいだは、湿度計・弓の毛・駒の傾きの3つを見る習慣をつけると安心です。
- 湿度計の数字:40〜60%の範囲に収まっているか
- 弓の毛:しまうときに緩めているか、切れた毛が残っていないか
- 駒:横から見て傾いていないか
変化に気づいたら、いつ頃から、どんな音の変化があったかをメモしておくと、お店で相談するときに役立ちます。練習の前に、ケースを開けたついでに見る習慣にしておくと続けやすくなります。
自分でやってよいことと、お店・工房に任せることの線引きは?
拭く・しまう・湿度を見る、はご自分で。駒・魂柱・ひび・毛替えは、お店や工房へ。
| ご自分でやってよいこと | お店・工房に任せたいこと |
|---|---|
| 演奏後の松脂・汗の拭き取り | 魂柱の調整、倒れたときの対応 |
| 弓の毛を緩めてしまう | 駒の位置に不安があるときの調整 |
| 湿度計で湿度を見る | ひび・はがれの補修 |
| 市販ポリッシュでの軽いお手入れ | 弓の毛替え、スティックのゆがみ |
天理楽器では、修理・調整は店舗への持ち込みでご相談いただけます。郵送での相談も可能です。冬の入口のこの時期に、楽器の状態を一度見てもらっておくと、乾燥しきる前に気づけることもあります。「このままで大丈夫かな?」と迷ったときは、写真や症状を添えてお店にご相談ください。
天理楽器の音楽教室の体験レッスンは、無料・予約制で、およそ30分です。楽器の貸し出しもあります。バイオリンを習ってみたい方、お子さまに習わせたい方は、お気軽にお申し込みください。
よくある質問
- バイオリンの弓は、使い終わったら毛を緩めたほうがいいですか?
- はい、毛は緩めてからしまってください。張ったままだと弓の反りが戻ってしまいます。湿った場所で張ったまま乾燥した場所へ移すと、毛が縮んでヘッドが割れることもあります。しまう前にスティックやフロッグ、グリップの汗も拭いておくと安心です。
- バイオリンの弦は、弾かないときは緩めたほうがいいですか?
- 日常的には緩めません。弦を緩めると、駒や魂柱が倒れやすくなるためです。1か月以上弾かないときだけ、4〜5度ほど音を下げる目安があります。ギターのように弦を緩める保管とは考え方が逆なので、混同しないようにしましょう。
- 冬のバイオリンの湿度は、何%くらいが目安ですか?
- 50%前後が目安で、40〜60%を超えないようにします。直射日光やストーブ、エアコンの風が直接当たる場所は避けてください。冬は暖房で湿度が下がりやすいので、部屋に湿度計を置いて数字を確かめましょう。加湿のしすぎで60%を超えないことも大切です。
- 演奏後、バイオリンの松脂はどうやって取りますか?
- 毎回、柔らかいクロスで松脂の粉を拭き取ります。弦は「キュッ」と音がするくらいまで、表板・指板・駒のまわりも拭いてください。放置すると固まって取れなくなります。こびりついたときは、市販のポリッシュを使うか、爪で引っかかずに工房へ相談しましょう。
- 駒が動いたかもしれないとき、自分で直してもいいですか?
- 不安なときは、自分で直さずお店に持ち込んでください。駒は接着されておらず、弦の力で乗っているだけです。動かすと、魂柱を倒したり、弦を切ったりする恐れがあります。天理楽器では、修理や調整は店舗への持ち込みで相談できます。郵送での相談も可能です。
- バイオリンの弓の毛替えは、どのくらいの頻度ですか?
- 目安は、松脂の乗りが悪くなったときです。ある工房では半年に1回ほどが目安で、職業で演奏する場合は月に1回のこともあります。発表会などの本番があるなら、1週間前までに済ませておくと安心です。作業は弓を分解するため、お店や工房にお願いします。
- バイオリンのニスは、水拭きしてもいいですか?
- 水拭きは基本的に避けてください。水はニスを溶かすことがあるためです。汚れは柔らかいクロスで拭き、こびりついたときは市販のポリッシュを使います。それでも落ちないときは、無理をせず工房に相談しましょう。
制作:天理楽器


